時計が好きになったのは、確か12歳か13歳の時だったと思う。父が買ってきた『腕時計』という文庫本を読んで、かっこいいと思ったのがきっかけだ。掲載されていたのはほとんどがアンティークウォッチ、つまりは昔の時計で、しかしパテック フィリップだのオメガだのロレックスだのは、中学生にはとても手が届かなかった。初めて買った時計は、1950年代製造のシーマ手巻きだった。お小遣いを貯めて南青山のアンティークショップ、ホームラン商会に出向き、一番安いこの時計を選んだ。値段は確か1万2000円。高校に入学した時は、奮発して50年代のオメガ「コンステレーション」を手に入れ、大学1年の時に、大枚をはたいてレストアした。
大学を出た後、普通の勤め人になったが、時計好きが高じ、やがて時計雑誌で記事を書くようになった。取り上げるのはほとんどが現行品だが、買うのは相変わらずアンティークウォッチが多い。現行品も買えと文句を言われるが、高くてそうそう買えない。それにアンティークウォッチには独特の面白さがあるので、ついつい手が伸びてしまうのである。